映画『キャロル』が映画史上最も美しく官能的な恋物語だと大評判の中、
「あの終わり方がいまいち」
「結局どうなったの?」
とモヤモヤしている方もいるようです。
ラストシーンにはセリフが一切なく、明確な答えが見えないままキャロルとテレーズの視線のやりとりだけで終わってしまいます。
あの結末は果たしてハッピーエンドだったのでしょうか、でなければテレーズは何かキャロルに言い忘れたことがあって戻ったのでしょうか?
今回は『キャロル映画の結末は終わり方がいまいち?あのラストシーンはハッピーエンドなのか?』のタイトルで、この映画の監督トッド・ヘインズ氏がどのような意図をもって映画のラストシーンを撮影したのか、詳しく見てみることにしました。
もくじ
キャロル映画のラストシーン結末はハッピーエンドだったのか?
『キャロル』
映画史上最も美しいラブストーリー💓💑💓#Carol #CateBlanchett #RooneyMara #MerryChristmas pic.twitter.com/nuR4FhZhW8
— モリサトルーニー (@eBGuC279ieWYYMP) December 24, 2018
映画『キャロル』の終盤、久しぶりに再会を果たしたキャロルはテレーズに「一緒に暮らして欲しい」と頼みますが、テレーズはキャロルからの誘いを、その時初めて断ります。
ラストシーンでは、キャロルが会食しているリッツのレストランに、先ほど別れたはずのテレーズが再び姿を現しますが、セリフは一切ありません。
キャロルの頬に浮かびかけたかすかな笑み。
この終わり方をどう解釈したら良いのかよくわからない方もいるようです。
どこでわかるの?
確かに、一見とても曖昧な終わり方をしたように見えますが、『キャロル』の監督トッド・ヘインズ氏は、ある明確な意図をもってあのラストシーンを撮ったそうです。
公式インタビューでのやりとりを見てみましょう。
── 原作がなく内容を自由に変えられたら、このラブストーリーを悲劇的な結末にしたと思いますか?
いや、そうは思わない。『キャロル』のエンディングで気に入ってるのは命を絶ったり療養所送りになったりしないことだ。だが何の保証もない。これは始まりのようなもの、終わりは始まりなんだ。このシーンを撮っていた時、ケイトとルーニーに『卒業』のエンディングの話をした。あの大胆な花嫁奪還のシーンだ。ベンジャミンは教会に乗り込み、家族の制止を振り切り、ドアに十字架をかけてエレインをさらい、二人でバスに乗り込む。その後は「さてどうしよう」だ。これから待っているのは現実。映画はここでおしまいだが。僕はこの作品でも同じように感じたんだ。テレーズがキャロルの所へと歩き出す前に、彼女にこの瞬間を与えたかった。
(オフィシャル・インタビューより)
まずインタビュアーがした質問にご注目ください。
── 原作がなく内容を自由に変えられたら、このラブストーリーを悲劇的な結末にしたと思いますか?
つまりこの質問には2つの事実が込められています:
- 映画『キャロル』のラストシーンは原作の内容に忠実である
- 悲劇的な結末「ではなかった」→ハッピーエンドだった
そして、これに対してトッド・ヘインズ監督が何とコメントを返したかというと、次の2つです。
- 「これは始まりのようなもの、終わりは始まりなんだ」というコメント
- 映画『卒業』のラストシーンについてのコメント
それぞれ、映画『キャロル』の結末をハッピーエンドとして撮ったことを裏付ける内容です。どういうことでしょうか?
ハッピーエンドの理由1:これは始まりのようなもの、終わりは始まりなんだ
トッド・ヘインズ監督は、このエンディングは「始まりのようなもの」だと言っています。
「終わりは始まりなんだ」、つまりこの映画のラストシーンにこの後の展開を見せている、ということです。
それが「別れ」のストーリーなのであれば、すでにテレーズがキャロルの誘いを断るシーンは出てきていますから、ラストでわざわざキャロルが会食しているレストランに戻ってまでダメ押しする必要はないわけです。
二人の過去の恋愛ストーリーはラストシーンに入る前までですでに終わっているのです。
ラストシーンでテレーズがキャロルの前に再び現れた、ということは終わった恋を掘り起こそうとしているのではなく、キャロルとの「新たな恋」を始めるためであることに疑いの余地はありません。
ハッピーエンドの理由2:映画『卒業』のラストシーンについてのコメント
トッド・ヘインズ監督は『キャロル』のラストシーンを撮影するにあたって、主演の二人に映画『卒業』のラストシーンの話をした、と語っています。
このシーンを撮っていた時、ケイトとルーニーに『卒業』のエンディングの話をした。あの大胆な花嫁奪還のシーンだ。ベンジャミンは教会に乗り込み、家族の制止を振り切り、ドアに十字架をかけてエレインをさらい、二人でバスに乗り込む。
その後は「さてどうしよう」だ。これから待っているのは現実。映画はここでおしまいだが。僕はこの作品でも同じように感じたんだ。テレーズがキャロルの所へと歩き出す前に、彼女にこの瞬間を与えたかった。
(引用:公式インタビューより)
つまり、キャロルとの新しい現実に向き合う前に、映画『卒業』でベンジャミンとエレインが「さてどうしよう」と顔を見合わせたあの瞬間をテレーズにあげたかった、ということだったのです。
『卒業』のラストシーンについてのコメントの前にも、トッド・ヘインズ監督は映画『キャロル』の結末について「何の保証もない」と言っています。
「何の保証もない」
「これから待っているのは現実」
この2つのコメントから、キャロルとテレーズの”その後”は決して安寧なわけではないことがわかりますね。
それは同性愛者として共に暮らしていくことを決めた二人にこそ待っている試練なのです。
1950年代は同性愛者にとってとても生きにくい社会でした。
差別や偏見という以上に、同性愛は社会的に許されないことだとされていたからです。
その道を敢えて選ぶことにしたテレーズに、「現実と向き合う前の一瞬」をトッド・ヘインズ監督は与えたかった、と言ってるんですね。
この映画の原作『The Price of Salt』とその時代背景、原作者の人物像などについて、もっと知りたい方はこちらの記事でご紹介しています。
まとめ
『キャロル』
映画史上最も美しいラブストーリー💓💑💓#Carol #CateBlanchett #RooneyMara #MerryChristmas pic.twitter.com/nuR4FhZhW8
— モリサトルーニー (@eBGuC279ieWYYMP) December 24, 2018
今回は『キャロル映画の結末は終わり方がいまいち?あのラストシーンはハッピーエンドなのか?』についてご紹介しました。
一見、曖昧なラストシーンで、結局キャロルとテレーズはよりを戻すのか別れるのかよくわからないままモヤモヤしてしまった方は多いと思いますが、トッド・ヘインズ監督の意図としては明らかにハッピーエンドでした。
この映画のその後には、キャロルとテレーズの新たな恋愛ストーリーが待っていると考えて間違いないでしょう。
その後のふたりについてもっと深く考察してみたい方は下記の記事もどうぞ♪