キャロル映画の原作は実話!内容と時代・裏話を紹介

キャロル映画の原作は実話!内容と時代・裏話を紹介
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映画『キャロル』の原作はクレア・モーガン著『The Price of Salt』という作品です。

しかしこれは偽名で、本当の作者は当時すでに人気作家だったパトリシア・ハイスミスという女性が書いた実話でした。

ハイスミスが実名で『The Price of Salt』を出版できなかった背景には、1950年代という、時代を反映した社会的抑制があったのです。

それがどんな内容だったのか、今回は『キャロル映画の原作は実話!内容と時代・裏話を紹介』のタイトルで出版の裏話をご紹介します。

 

もくじ

キャロル映画の原作は実話だった?内容と時代・裏話を紹介

映画の原作『The Price of Salt』は1952年に出版されました。

作者パトリシア・ハイスミスの自伝的小説だったといわれています。

ハイスミスは当時、長編第一作目の『見知らぬ乗客』がすでにヒッチコック監督により映画化され大ヒットを収めていました。

その後も同性愛者リプリーについて書いた『太陽がいっぱい』も映画化されるなど、はいスミスは人気作家の地位を獲得していくのですが、映画『キャロル』の原作『The Price of Salt』については偽名のクレア・モーガン名義で出版しているのです。

なぜなのでしょうか?

 

原作『The Price of Salt』はなぜ偽名で出版されたのか

パトリシア・ハイスミスが映画『キャロル』の原作『The Price of Salt』を偽名で出版したのは、彼女自身がLGBT、同性愛者だったことが世に知られてしまうことを恐れたからです。

1952年当時、同性愛は社会的に許されていませんでした。

発覚すると精神病とみなされ、病院で治療を受け「更生」することを求められました。

その時代に自ら同性愛者であることを公表するのが恐怖だったのは尤もなことだったでしょう。

しかし、クレア・モーガンの名前で出版したにもかかわらず、ハイスミスの元には世界中から多くの同性愛者が書いた、称賛と励ましのファンレターが毎週届いたそうです。

この小説が衝撃的だった一番の理由は、結末がハッピーエンドだったことでした。

 

1950年代当時は同性愛がタブーだった

当時、同性愛について書かれた小説は他にも多数あったそうです。

しかしどれも、その時の社会情勢を反映して「同性愛者となれば、気が狂うか自殺するか、もしくは男性と結婚するしかない」という内容だったそうです。

小説の中でさえも、同性愛が肯定されることはなく、不幸になるしかなかったのが現実でした。

そんな中、『The Price of Salt』は過去に例を見ない全く新しい展開で、純粋にひたむきに愛し合う女性同士の恋愛を書きました。

主人公が当時の社会規範を外れた恋を苦に自殺したり、気が狂ったり病院に行ったりすることなく、愛するひとと幸せに生きて行くという展開は、当時の社会情勢としては一大センセーショナルだったのです。

 

原作者ハイスミスには男性の恋人もたくさんいた?

同性愛者が許されなかった時代、ハイスミスは男性よりも女性を強く愛していたにもかかわらずその事実を公表することができませんでした。

ハイスミスが同性愛者であることを知らなかった周囲の人たちは、ハイスミスは非常に魅力的な女性でありながら無神経でお酒ばかり飲んでいた、と話しているそうです。

男性の恋人もたくさんいて、一時期は数人同時に付き合っていたりもしたそうですが、ハイスミスはその男性たちに点数をつけ、メリットのある順に並べて表を作って見せたことがあるそうです。

もしもその男性たちの中に一人でも本気で愛したひとがいたならば、そんな無粋なことをするでしょうか?

ハイスミスは本当は男性を愛することができなかったのです。

映画『キャロル』の原作『The Price of Salt』では、ハイスミスが勤め先のデパートで出会った謎の女性の住所を手に、家を探し当てるシーンがあるそうです。

しかし作中、ハイスミスはそのドアをノックすることができません。

謎の女性が住むその家を遠目に眺めることしかできないのです。

自分の心のままに生きられたなら、「ボーイフレンド・メリット表」を作るような残酷なことをしなくて済んだだろうに・・・不自由な時代でしたね。

 

原作には別エンディングも存在した!その内容とは?

ハイスミスはこの小説を出版するにあたり、当時の慣習に倣った別エンディングも書いていたそうです。

つまり、テレーズがキャロルの元に戻ることはなく、二人は近くにいながら決して結ばれることがないという結末です。

その終わり方なら、ハイスミスはクレア・モーガンという偽名を使わずに出版できたかもしれません。

しかし、両方の原稿を読んだ編集者がハッピーエンドのほうを選んだのです。

当時としては画期的な、斬新なエンディングです。

それまでの美しくひたむきなストーリーを台無しにしないためにも、良い選択だったのではないでしょうか。

 

キャロルのモデル女性も名前は『C』彼女の不思議な結末

原作『The Price of Salt』を執筆するにあたり、作者のパトリシア・ハイスミスは2人の女性からインスピレーションを受けました。

そのうちのひとりは彼女の恋人バージニア・ケント・キャサーウッド、そしてもうひとりが映画の中でテレーズがキャロルに出会ったのと全く同じシチュエーションでハイスミスが出会った、見知らぬ女性です。

ハイスミスは当時、デパートの臨時職員として働いていました。

そこに現れた、ミンクのコートをまとった美しいブロンドの女性からインスピレーションを受け、ハイスミスは筆の赴くままにあっという間に物語を書き上げたのです。

この女性は購入した商品の送り先としてE.R.Sennという名前と住所を書き残していったそうですが、これは女性の旦那さんの名前でした。

ハイスミスがこの女性自身の名前を知ることは生涯ありませんでしたが、その後なんとハイスミスの伝記を書いたアンドリュー・ウィルソンが、彼女の名前を探し当てたのです。

その女性の名はキャスリーン(Catherine)でした。

ハイスミスの手元に女性が残していったメモに書かれていた名前(E.R. Senn)は女性の旦那さんの名前で、そこには「C」というイニシャルはありません。

しかし、ハイスミスは偶然にも、映画に登場する女性に同じ「C」で始まる、キャロル(Carol)の名前を充てたのです。

そしてここにはもうひとつ、小説の内容に符合するような、不思議な顛末がありました。

キャロルのモデルとなったこの女性、キャスリーン・センは『The Price of Salt』が出版される前に一酸化炭素中毒で自ら命を絶ったのです。

パトリシア・ハイスミス

出展:https://rollingstonejapan.com/articles/detail/25628/6/1/1

キャロルのモデル女性も実はレズビアンだった?

映画『キャロル』の中で、キャロルに出会ってからテレーズは、レズビアンの女性が思いの外多く存在することを知ります。

同性に対して恋愛の扉が開いたというか、チャンネルが開かれたのでしょう。

惹かれ合う人たちは、お互いを視止めると強いインパクトを残します。

ハイスミスがデパートで遭遇した女性、キャスリーン・センからインスピレーションを受けたのは、お互いにレズビアンだったからかもしれません。

1950年代は、同性愛者にとって非常に生きにくい時代でした。

小説の中でさえ、同性愛者は社会的抑圧や制裁を受けて悲劇的な結末を迎えるしかなかった時代です。

キャスリーン・センももしかしたら、キャロルと同じように重い苦しみを抱えていて、耐えきれず命を絶ったのかもしれません。

そんな不思議な結末を、ハイスミスが生涯知らずに過ごしながらこの小説を出版し、後に明らかになったというのは、何か運命的なものを感じます。

『The Price of Salt』が同性愛者にとって歴史的に転機となった作品であることを考えると、キャスリーン・センとハイスミスの果たした功績は大きいですね。

映画『キャロル』のその後、テレーズの恋はどうなるのでしょうか?

ハイスミスも知らない、キャロルとテレーズのその後について知りたい方はこちらの記事をどうぞ♪

>>キャロル映画のその後・テレーズの恋愛はどうなるの?

 

まとめ

『キャロル映画は実話だった!内容と時代・裏話を紹介』のタイトルで、作者パトリシア・ハイスミスとキャロルのモデル女性の不思議な縁についてお話しました。

同性愛が社会的に認められなかった1950年代、ハイスミスは自らがレズビアンであることを世に公表することを恐れ、クレア・モーガンという別名で原作『The Price of Salt』を出版しました。